風刺小説「帰ってきたヒトラー」は現代への毒々しい警告か

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 ドイツの現代風刺小説「帰ってきたヒトラー」(ティムール・ヴェルメシュ著)は、ドイツのほか世界40カ国で翻訳されたベストセラーで、映画化もされましたので、ご存じの方は多いかもしれません。ドイツらしい、非常にブラックな皮肉がたっぷりと込められたコミカルなストーリーです。

 ただ、ヒトラーやナチズム、人種や民族問題を風刺の対象としていますので、題材的には賛否の議論があるかもしれません。実際、映画の批評では「容認できない。まったく笑えない」といった厳しい意見も聞かれました。

 しかし私は、こうした皮肉を許すドイツ社会がいかに大人で、成熟しているのかに感銘を受けました。法律的にもドイツはナチズムに極めて厳しく、戦前・戦中史の「修正」的な言動を絶対に許しません。

 もちろんそういうドイツの歴史観や社会内部にも多々問題はあり、もろ手を挙げて賞賛するつもりはありませんが、今の日本ではとても書きえない小説であることは確かです。

 物語は、あの独裁者ヒトラーがある日、現代ドイツに舞い戻るところから始まります。本物ですから当たり前ですが、外見が本人そっくりで発言もリアルな危ない毒々しいものばかり。これが反語的な社会批判と受け、たちまち「ヒトラー物まね毒舌芸人」に仕立て上げられ、TVやネットで大人気となります。

 ドイツの社会、人権、政治風刺満載ですが、著者が最も言いたかったのは、ヒトラーは実は異常な怪物だったのではなく、あの当時も国民から熱狂的に支持された、ある意味「魅力ある一人の人間」だったということではないでしょうか。いつの時代でも「ヒトラー」は蘇りうる。そう警告しているように感じられてならないのです。